北朝鮮は「終戦宣言」を国連総会で狙う? 米は情報戦で揺さぶり

2018/08/12 01:00

 9月末の国連総会で北朝鮮・金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が訪米するとの説が消えていない。一般演説で米国からはトランプ大統領が、韓国からは文在寅(ムン・ジェイン)大統領が登壇するが、中国と北朝鮮はいまのところ閣僚級が演説する予定だ。ただ登壇者は直前での変更も可能でサプライズもあり得る。米朝協議は停滞しており、先にシンガポールで行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議に関連する一連の会合でも米朝外相会談は実現しなかった。朝鮮戦争の「終戦宣言」に固執する北朝鮮と非核化の具体的行動を促す米国が対立する中、国連総会は朝鮮戦争の関係国である米中と南北がそろう大舞台だけに、北朝鮮は何らかの形で「終戦宣言」のアピールを狙っているという。

北朝鮮、中国、韓国が「終戦宣言」で対米攻勢

 米国は非核化の第1段階として核施設の申告リストの提出を北朝鮮に求めているが、北朝鮮は応じていない。リストは非核化の本気度が問われるが、北朝鮮は7月初旬のポンペオ米国務長官の訪朝でも、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長が「一方的な譲歩はできない。終戦宣言が行われればわれわれもひとつずつ措置を行う」と終戦宣言に固執した。

 北朝鮮が終戦宣言にこだわるのは、現在の休戦状態が終戦となれば、在韓米軍が駐留を続ける根拠を失うことが大きい。一方、米国側は終戦宣言はあくまで政治宣言であり、在韓米軍や米韓合同演習とは関わりないとの立場だ。

 

 だが終戦が確定すれば、米韓合同軍事演習を継続しにくい環境になるのも事実で、南北の軍事境界線の武装解除や在韓米軍撤退論も出てくる。何よりも北朝鮮は平和アピールで早期の対北経済制裁解除を狙っている。

 いま、北朝鮮の主張する「終戦宣言」に強い意欲をみせているのが韓国と中国だ。

 先のASEAN外相会議に絡んで目立ったのが、中国の積極的な姿勢だった。王毅外相は北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相との各会談で終戦宣言に参加の意思を明確に示し、「終戦宣言は非核化を進めるのに役立つ」などと述べた。

 韓国は南北首脳会談の成果である「板門店(パンムンジョム)宣言」に今年中の終戦宣言、休戦協定の平和協定への転換を明記した。韓国案は今年中に終戦宣言、来年早々には南北と米国の3者、または南北と米中の4者による会談で平和協定締結という2段階論だ。

 文在寅大統領は金正恩氏と今秋の北朝鮮での南北首脳会談開催に合意しているが、米朝協議を進め、終戦宣言仲介のため「8月末の首脳会談案」(韓国紙)も取り沙汰されている。

いらだつトランプ氏を親書でなだめる金正恩氏

 金正恩氏はトランプ氏の機嫌を見計らいながら親書外交で気を引いている。シンガポールでの米朝合意後、後続協議も進まず非核化の具体的成果が全くないことに内外から批判が相次ぐなか、北朝鮮は朝鮮戦争休戦記念日(7月27日)に米兵遺骨55棺を米国に返還した。

 

 その数日後、トランプ氏に金正恩氏の親書が届いた。トランプ氏はツイッターに「あなたのステキな手紙に感謝。すぐ会えるようになることを待っている」などと書いた。

 金親書はこれで3度目だった。最初は北朝鮮高官の非礼に怒ったトランプ氏が、米朝首脳会談を一方的に延期した5月24日の直後。側近の金英哲氏を訪米させ、親書を渡した。2度目は7月初旬に訪朝、非核化の具体的進展を迫ったポンペオ氏にトランプ氏への親書を託した。米国がいらだつタイミングに合わせ、金親書は出されている。

 一方、米当局者が北朝鮮の非核化遅延やリスト未提出の対応に不快感を見せ始めているのも事実。北朝鮮は、朝鮮半島の緊張緩和を11月の中間選挙の好材料に使いたいトランプ氏の事情を利用しているようにみえるが、このまま停滞した状態で米朝関係が秋までもつかは不透明だ。

 そんななか、米国は非核化の基礎となる核施設の申告リストをめぐって北朝鮮に揺さぶりをかけている。このところ米メディアでは、北朝鮮・平壌近郊の「カンソン(降仙)」という名の秘密ウラン濃縮施設に関する報道が相次いでいる。報道によると、カンソンには「遠心分離機6000台を保有できる規模の施設」があり、技術者の宿泊施設も併設されている大規模なもので、2003年頃から稼働を開始したとされる。高濃縮ウラン核施設はこれまで寧辺しか確認されてこなかったが、秘密施設は数カ所あるとみられていた。

 「カンソン」に関する米メディアの報道は5月末が初報で、6月、7月と複数の報道が続いている。

 米国はこの間、非公開の高位級脱北者からの情報や情報機関による調査で北朝鮮核施設のデータを収集してきただけに、「隠蔽しても無駄だ」と言わんばかりの情報戦も始まっている。(編集委員)