困難暗示したトルコ大統領選 反米?協調?エルドアン氏再選で米国と波乱含み

2018/07/12 08:00

 トルコで6月24日に行われた大統領選で、現職のエルドアン大統領が再選を果たした。投票率は約87%と国民は高い関心を示し、同氏の得票率は52・6%とかろうじて過半数を制するにとどまった。エルドアン氏の強権統治に対する賛否が国を二分している形で、投票日には有権者同士が言い争う場面にも出くわした。トルコの政治体制が変わる歴史的選挙は、世論の対立の深刻さを見せつける機会となり、国の行く末の困難を暗示していた。(アンカラ 佐藤貴生)

薄氷の勝利

 投票が始まった6月24日の午前8時過ぎ、首都アンカラ市内の街角で投票を済ませた男性(81)に話を聞いていた。「現状に満足している」と話し、エルドアン氏の支持者だと分かった瞬間、横を通り過ぎようとした女性(58)が足を止め、「エルドアン氏は民主主義の敵よ」と言って男性をにらみつけた。

 大統領選と同時に行われた議会選(定数600)では、政教分離の世俗主義を掲げる共和人民党(CHP)など4党が協力態勢を組み、イスラム色が濃いエルドアン氏の与党、公正発展党(AKP)に立ち向かう構図となった。

 協力に応じた野党はイスラムの価値を重視する党や、トルコ・ナショナリズムを重んじる党など、志向する政策はまちまち。トルコの野党がこれほど結束したのは初めてともいわれ、2003年以来続くエルドアン政権を打倒すべき、との危機感がにじんでいた。

 

 大統領選ではエルドアン氏が僅差で過半数を上回って決選投票を回避し、議会選ではAKPが過半数あった議席を減らしたものの、選挙協力した極右の民族主義者行動党(MHP)と合わせ、過半数を確保した。

 トルコでは昨年4月、国民投票で憲法改正案が可決された。首相職を廃止して行政の長は大統領となり、閣僚任免や予算、非常事態宣言などの広範かつ強大な権限が新たに付与される。

 改正案はエルドアン氏が大統領にとどまることを前提としたものだったが、国民投票も賛成は51%で反対は49%と、薄氷を踏む“勝利”だった。

「ワンマン統治」

 エルドアン政権に対する評価が真っ二つに割れた原因の一つが、イスラム組織「ギュレン運動」への大規模弾圧だといわれる。

 在米指導者ギュレン師をトップとし、多数の学校を設立して警察や司法界、マスメディアなどに多くの人材を送り出した。イスラムを重視するエルドアン氏やAKPとは共存共栄の関係にあったが、政界に影響力を及ぼすかのような動きを見せたことから13年ごろから関係が悪化。16年夏のクーデター未遂事件で同組織の関係者ら約16万人が拘束される事態となり、いまや不倶戴天の敵だ。

 在アンカラの西側外交筋は「エルドアン氏は自ら敵を作っては打ち勝ってきた」とし、ギュレン運動のほかにも少数民族クルド人ら複数の集団が敵視されてきたと指摘した上で、「だんだん敗者が増えている格好で、世論の分断も深刻だ」と話した。

 

 大統領選ではCHPのインジェ議員がエルドアン氏に次ぐ31%を得票したが、これも反エルドアン世論が高まっている証といえる。インジェ氏は大勢判明後、トルコは「ワンマン統治」になると警鐘を鳴らした。

独自外交の行方

 エルドアン政権は外交面では、シリア内戦などをめぐってロシアやイランとの関係を深めている。トルコは欧米諸国とともに北大西洋条約機構(NATO)に加盟しており、中東をにらむ要衝に位置するだけに、懸念が広がっている。

 トルコはロシアの防空システムS400の購入に関心を示しているとされ、米国務省幹部はエルドアン氏の続投決定後の26日、「S400の獲得は軍事産業面の協力に大きな影響を与えかねない」と述べて警告した。トルコは米側から最新鋭戦闘機F35を100機調達するとしているが、幹部はこの取引にも影響が出る可能性があるとしている。

 また、トルコのチャブシオール外相は29日、「イランはよき隣人であり経済的つながりもある。他国が言ったからといって貿易関係を断つことはない」と述べた。トランプ米政権がイランとの核合意から離脱し、11月以降にイランと取引した企業は制裁対象になる-と発表したことに真っ向から反論した形だ。

 トルコは内戦が続くシリア北部のクルド人民兵組織「人民防衛部隊」(YPG)を、自国内の非合法武装勢力「クルド労働者党」(PKK)の分派とみなし、支援する米国を非難してきた。また、先に触れたギュレン師をクーデター未遂事件の黒幕だと断定して身柄引き渡しを求めているが、米側は応じていない。今後は米トルコ関係がさらに冷え込む可能性がある。

 

 エルドアン氏の続投決定を受け、プーチン露大統領やイランのロウハニ大統領が祝福のメッセージを送った。さらに、パレスチナ自治政府のアッバス議長も祝意を表した。エルドアン氏はしばしばパレスチナ問題などでイスラエルを批判している。サウジアラビアなどが断交して1年が過ぎたカタールのタミム首長も祝福した。

 この顔ぶれがエルドアン外交の独自性を示している。米国との協調か、それとも反米諸国に与するのか。今後5年間続くエルドアン政権の動向は国際社会に大きな影響を与えそうだ。

トルコ議会選の主要政党の得票率

《与党》

公正発展党42・6%

民族主義者行動党11・1%

《野党》

共和人民党22・6%

国民民主主義党11・7%

優良党10%

レジェプ・タイップ・エルドアン氏 トルコ大統領。64歳。イスラム教の説教師を養成する学校をへて、マルマラ大経済商学部卒。1994年イスタンブール市長に当選。98年に政教分離に反する演説をしたとして実刑判決を受け、市長を失職。2001年、公正発展党(AKP)を結成、初代党首。03年に国会議員に当選し首相に就任。14年の選挙で当選し大統領に就任。18年6月再選。