米大使館の移転 中東問題の拡大を避けよ

2018/05/16 05:03

 イスラエルの「首都」をエルサレムと認定したトランプ米政権が、大使館をテルアビブから移転した。

 パレスチナ自治区ガザでは、これに抗議したデモ隊とイスラエル軍が衝突し、多数の死傷者が出る事態に発展した。

 大使館移転はトランプ氏の選挙公約の一つだった。和平プロセスが頓挫しているなかで「新たなアプローチ」が必要だとの主張は理解できる。

 問題はどんなアプローチなのかが依然、示されていないことである。展望を持たないまま公約実現を急ぎ、事態を複雑にしている。混乱を収束させる外交努力を求めたい。

 エルサレム移転は米国の法律で決まっていたことで、歴代大統領は執行を延期してきた。トランプ氏が言うように、執行延期で和平交渉が進んだわけではない。

 ただ、国際社会はエルサレムの帰属をイスラエルとパレスチナ双方の協議で決めるよう望んでおり、この地をイスラエルの首都とは認めていない。パレスチナ自治政府のアッバス議長は、米国の和平交渉仲介を拒否している。

 あてもなく突き進んだ点では、米国によるイラン核合意離脱も同列のできごとだ。イランの核開発をどう阻止するか、米国は示していない。

 中東情勢はイスラム国(IS)こそ排除されたものの、シリア内戦は泥沼化した。イエメンでは、サウジアラビアとイランの代理戦争が繰り広げられている。

 米国の核合意離脱を歓迎するイスラエルとイランとの関係も悪化し、シリア国内で両国の交戦も伝えられた。大使館移転による衝突の連鎖的拡大が懸念される。

 米国を含む国際社会はいま、北朝鮮の非核化という重大な懸案に取り組もうとしている。中東では政治情勢の安定化を考えるべきだ。米国が事態をこじらせたとはいえ、国際社会は取り組みを強める必要があろう。

 安倍晋三首相はさきのイスラエル、パレスチナ訪問でアッバス議長に大使館移転で米国に追随しない考えを伝えた。和平実現に米国の役割が不可欠とも指摘した。

 日本はイスラエル、パレスチナのほかイランとも良好な関係にある。安倍首相とトランプ氏との信頼関係も厚い。米国が北朝鮮問題に集中してあたるよう促すことも、日本の中東外交のカギだ。