「結局、その夜も…」ポスト文在寅最有力候補のおぞましい性暴力の手口

2018/03/13 12:00

 米国で火がついたセクハラ告発運動「#MeToo」が、ここ1カ月余りの間に韓国で急速な広がりを見せている。司法当局や芸能界で相次ぎ問題が発覚したのに続き、今月に入り「ポスト文在寅(ムン・ジェイン)」の最右翼だった与党所属の現職知事が、女性秘書から性暴力被害を暴露され辞任。平昌五輪や南北対話にも並ぶ関心事として社会を揺るがしている。(外信部 時吉達也)

文大統領に「熱いキス」の後継候補

 「何してるんだ?」「すまん」「電話に出てくれないんだね」「おやすみ」-。約1時間半の間に、一方的に送られた15通のメッセージ。チャットアプリの画面上での男女の会話が暴露されるのは、日本でもおなじみとなりつつあるが、発信者の男は芸能人などではない。次期大統領の最有力候補とも評価されていた現職の忠清南道知事、安煕正(アン・ヒジョン)氏(52)だった。

 安氏は昨年の大統領選で、与党「共に民主党」の予備選に出馬。端正な顔立ちと若さが人気を集めた。

 ポピュリズム(大衆迎合主義)をあおる他候補とは対照的に、外交面では敵対する保守政権の政策についても引き継ぐことを明言。慰安婦問題をめぐる日韓合意の破棄や、中韓間の懸案になっていた米軍の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備問題の白紙撤回などを訴えた文在寅氏とは大きく異なる姿勢を示した。支持率は文氏に敗れるまで、保守系や中道政党を含む全候補者の中でも2位を守った。

 昨年5月、文在寅氏の大統領就任が決まった際には、党支持者が集まった舞台上で、文氏のほおに熱い「キス」を披露。次期指導者として禅譲を受ける準備は万端かにみえたが-。

 

 今月5日。実名で顔を出し、ニュース番組に出演した女性秘書が、安氏の「裏の顔」を暴露した。

「私の影のように生きろ」

 「忘れろ。スイスとロシアの美しい風景だけ覚えておけ」。大統領選後から安氏の政務に随行する担当となった秘書は、海外出張などで周囲のスタッフがいなくなる度に、性的暴行を受けたと告白。秘書の立場で口答えをすることは許されなかったと振り返った。「意見するな。お前は俺を写す鏡だ。私の影のように生きろ」と命じられ、暴行に耐えていたという。

 「#MeToo」運動が韓国社会で急速に広がり始めた今年2月。ある夜、秘書を呼びだした安氏は運動について言及し、これまでの暴行について「傷つけた。すまない」と謝罪したという。「でも…」。秘書は消え入りそうな声で続けた。「結局、その夜も(暴行)されたんです」。

 安氏側は当初、「合意があった」と女性秘書の主張を否定していたが、間もなく自身のSNSで「合意に関する発表は誤りでした。すべて私の過ちです」と訂正。直ちに知事職を辞すると表明した。「共に民主党」は報道からわずか1時間で党首が謝罪し、安氏を除名処分とすることなどを発表。火消しを急いだ。

ノーベル賞候補、聖職者も…

 韓国の「#MeToo」運動は、本家の米国や他国にも比べても、圧倒的な速度で広がりつつある。

 きっかけとなった問題は1月末、現在安氏の捜査にも着手している、当の検察当局内で発覚した。女性検事が8年前、同僚の親族の葬儀場で、泥酔した法務省幹部から尻を触られるなどのセクハラを受け、その後不当な人事待遇を受けたと暴露。安氏の女性秘書と同様に、実名・顔出しでニュース番組に出演、告白したことが衝撃を与えた。

 

 以降、各界のトップが相次いで告発を受けた。東アジアのノーベル文学賞候補者として村上春樹氏とともに名前が挙がる詩人、高銀(コ・ウン)氏や、ヴェネチアやベルリンなど国際映画祭で多数の受賞歴を誇る金基徳(キム・ギドク)氏。キリスト教徒が神父から7年にわたり暴行を受けていた実態も暴露された。

 大学の演劇学科で教授を務めていた男性俳優は9日、首を吊った状態で遺体で発見された。教え子からの告発が相次いでおり、自殺を図ったとみられる。

 さらに今月10日には、与党「共に民主党」の国会議員で、ソウル市長選への出馬も取り沙汰された閔丙●(=木へんに豆)氏が、セクハラ行為の告発を受けて辞職を表明。一連のセクハラ・性暴力問題で初めて、現役国会議員が辞職に追い込まれることになった。

 告発を受けた中に、左派系の関係者や支持者が多く含まれていたことから、朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾罷免以降、存在感を示すことができていない右派はがぜん勢いづいている。党代表の女性蔑視発言などがたびたび問題になってきた最大野党・自由韓国党は、「性暴行被害を受けた女性の安息所であるかのように振る舞っていた民主党が、最も大きな暴行加害者集団だった」と攻勢を強めている。

 「男性中心社会が叫んできた、正義だの、自由だの、平等だの、芸術だの、献身だのという言葉が、どれだけ偽善的だったか明らかになった」(東亜日報)。各界で混乱が相次ぎ「もはや聖域はない」(京郷新聞)事態に、現在のところ、収束の兆しはみえない。

 #MeToo 「私も」を意味するツイッターのハッシュタグ(検索目印)。昨年、米映画界の大物プロデューサーによるセクハラ行為を女優らが告発したのを契機に、性被害告発の象徴になった。被害者が顔や名前を公表して加害者を告発したり、他の被害者に共感や連帯を示す動きが広がっている。