「安倍-ペンス」共に遅刻、緊密さ見せつけ 文在寅氏から笑み消えた、首相「高支持率なんだから決断を」

2018/02/13 07:15

 9日夕、韓国・平昌のホテル「竜平リゾート」のタワー・コンドミニアム9階。韓国大統領の文在寅との首脳会談を終え、くつろいでいた首相、安倍晋三の元に連絡が入った。

 「今、会えませんか?」

 米副大統領、マイク・ペンスだった。同じホテル内で米テレビのインタビューを終えたばかりだったが、首相側が応諾したと知ると、副大統領首席補佐官のニック・エイヤーズとともに10階から下りてきた。

 「平昌五輪を北朝鮮に利用させないようにすることが大事だ。しっかりと韓国に対応させるべく連携しましょう」

 南北の動向について意見交換をした上で安倍がこう言うとペンスは深くうなずいた。2人は7日の東京でも、晩餐会を含めると4時間近く会談を重ねてきた。今回の会談はわずか15分間だったが、もはや「阿吽の呼吸」だった。

■専用車同乗し会場へ

 核・ミサイル問題で孤立を深める北朝鮮は、平昌五輪に最高人民会議常任委員長の金永南だけでなく、朝鮮労働党委員長、金正恩の妹、党中央委員会第1副部長の金与正まで送り込んだ。この急激な軟化は、国連の経済制裁が効いていることの証左だといえる。

 

 「北朝鮮は、融和的かつ優柔不断な文在寅政権に目をつけるに違いない」

 一連の動きは安倍の読み通りだった。ペンスと別れて文在寅主催のレセプションに向かう準備をしていると、再びペンスから連絡が入った。

 「もう少し話をしたいから、こちらの車で一緒に会場に行きませんか?」

 安倍は通訳とともにペンスの副大統領専用車に乗り、同じ敷地内のレセプション会場に乗り込んだ。

■3人だけで写真撮影

 既に文在寅のスピーチが始まっていた。安倍とペンスは会場に入るのをやめ、別室でスピーチが終わるのを待った。

 「遅刻」も予定通りだった。スピーチ前の集合写真に金永南らと一緒に写りたくなかったのだ。

 安倍とペンスは、スピーチを終えた文在寅を別室に招き入れ、日米韓の3人だけで写真を撮影した。「3カ国の連携を絵に残る形で打ち出したい」という米側の意向の表れだった。

 写真撮影を終えるとペンスはレセプション会場で数人と言葉を交わした後、5分ほどで会場を立ち去った。金永南が座るテーブルにはペンスの席も用意されていたが、ペンスは最初から北朝鮮を無視する腹づもりだったとされ、着座する考えはさらさらなかった。文在寅による「米朝対話」実現への露骨な演出はお見通しだったのだ。

 

 一方、安倍とペンスは開会式までの間に2時間も一緒に過ごし、韓国や北朝鮮に対して日米の緊密さを見せつけた。

 平昌五輪を機に、安倍-トランプ関係に加え、新たに安倍-ペンス間にも太いパイプが築かれることになった意義は大きい。安倍が国内の反発覚悟で訪韓した最も大きな成果かもしれない。

     

 五輪は4年に1度の「スポーツの祭典」であり「平和の祭典」である。だが、平昌五輪は露骨な「政治の祭典」となった。

 北朝鮮は、最高人民会議常任委員長の金永南や、朝鮮労働党委員長である金正恩の妹で党中央委員会第1副部長の金与正を送り込み、韓国大統領、文在寅に「統一」という甘言をささやき続けた。10日の南北首脳級会談で金与正は兄の「特使」として笑顔を振りまきながら文在寅に訪朝を要請した。

 この露骨な南北融和路線に冷や水を浴びせたのが首相、安倍晋三と米副大統領、マイク・ペンスだった。2人は五輪開会式でも隣に座り、2時間にわたり会話を続けた。文在寅-ペンス-安倍の3人が並んで座ることにより国際社会に日米同盟、米韓同盟の強固さを誇示する狙いがあったが、結果は日米の絆ばかりがクローズアップされた。

 

 ペンスは実直な男で、安倍との会談内容について、米大統領のドナルド・トランプに逐一報告していたという。日本政府高官はこう明かした。

 「ペンスを介してトランプとも対話したようなものだった。実態は3者会談に近かった」

■怒気はらんだ首相

 逆に9日の日韓首脳会談は首脳間の絆を一切感じられない内容だった。

 会談は約1時間。安倍は冒頭の写真撮影からほとんど笑みを見せず、穏やかな口調ながらその一言一言は怒気をはらんでいた。

 これに対して、文在寅は愛想笑いを浮かべて相づちを打ち、日米韓の連携の重要性を口にするが、具体性に乏しく曖昧な表現ばかりだった。

 会談の同席者は「文在寅は『北の非核化まではちゃんとやる』と言うが、まるで非核化への道筋の中に対話があるような言いぶりだった」と打ち明ける。

 日米が描く対北朝鮮のシナリオは、制裁・圧力で北朝鮮を徹底的に追い込み、核・ミサイル開発方針を転換させるならば「ご褒美」として対話にも応じるという筋書き。文在寅のシナリオとは正反対なのだが、文在寅はその矛盾にあえて踏み込もうとしなかった。

 安倍が米韓合同軍事演習について「延期すべきでない」と述べたことに対し、文在寅は「わが国の問題だ」とだけ反論した。

 

 韓国政府は翌10日に「大統領は『われわれの主権の問題であり、内政問題だ』と述べた」と公表したが、他の案件ではほとんど反論できなかったことを自ら明かしたといえなくもない。

 慰安婦問題でも、文在寅の態度はどこかあやふやだった。

 安倍は会談冒頭で、韓国が一方的に公表した日韓合意に関する新方針を「受け入れられない」と断じた。迫力に押されたのか、文在寅は、日韓合意を破棄しない▽再交渉しない▽「和解・癒やし財団」は解散しない▽日本が拠出した10億円は返還しない-など4つを明言した。

 ところが、安倍が、在韓日本大使館前の慰安婦像撤去など合意の速やかな履行を迫ると「微妙な問題だからそう簡単には解決できない」「(元慰安婦の)おばあさんたちの気持ちが癒やされれば自然に解決するはずだ」などと釈明した。

 すると安倍はたたみかけるようにこう言った。

 「朴槿恵前政権の時に(10億円など)取るものは取っておいて実行できないというのはありえない」

 「日韓合意については、日本にも国民から強い反発があった。相当の批判があった。しかし、あえてここで決断しないと日韓関係は前に行けないと考え合意に応じた。あなたも国民の高い支持があるんだから決断しなければならない」

 文在寅の顔から愛想笑いが消えた。最後まで議論がかみ合うことはなかったが、文在寅も「国家間の合意」の重さが身に染みたのではないか。

 

■金永南氏取り囲む

 今回の訪韓で安倍には、もう一つ狙いがあった。金永南に拉致問題の解決を迫ることだった。

 好機は9日夜の文在寅主催のレセプションの最後にやってきた。来賓が席を立ち始めたとき、タイミングを見計らって安倍ら日本政府関係者が金永南を一気に取り囲んだ。首相秘書官の一人が周到に安倍用の椅子を用意し、安倍は金永南の隣に座って、こう訴えた。

 「拉致問題を解決し、横田めぐみさんをはじめ、すべての拉致被害者を返してもらいたい」

 時間にして10分未満。この時の金永南の対応は一切明かされていないが、ある政府高官は「拉致問題解決に向けた安倍の強い意志は十分伝わった。金正恩の元にも届くのではないか」と期待を寄せた。=敬称略(田北真樹子、阿比留瑠比)