北の五輪参加ウラ合意か 文大統領、訪朝断らずに「6月危機」?

2018/02/13 08:00

 金正恩朝鮮労働党委員長が「早期に会う用意がある」と要請した南北首脳会談提案を韓国の文在寅大統領が断るという可能性はほぼゼロに近い。米国が猶予した「五輪休戦」は3月18日のパラリンピック閉幕をもって終わり、米国は4月早々にも米韓合同軍事演習の実施を予定しているが、ここにきて韓国が延期を要請する可能性も出てきた。米韓関係の先行きが懸念され情勢が流動化するなか、米国が北朝鮮との交渉に応じる期限は6月との「6月危機説」がささやかれている。

「平壌で会いましょう」

 平昌五輪で文在寅政権が見せている北朝鮮への配慮は、固執、執着、異例のオンパレードだ。文大統領は北の高官を国賓級に扱い、これに対して金正恩氏の妹で特使の金与正氏は、文大統領夫妻に何回も「平壌で会いましょう」と繰り返した。韓国では「文大統領は南北首脳会談を当然受け入れるだろう」(韓国メディア)との観測が多い。

 一方、これまでの朝鮮半島情報を総合すると、南北間では北朝鮮の平昌五輪参加が決定した段階で、すでに五輪→南北首脳会談開催の道筋に裏合意があったとされる。

 南北の接触は「中国など第三国で、昨秋から複数回行われていた」とされ、「昨年12月中旬ごろ、北朝鮮関係者から『金正恩氏が新年の辞で五輪参加表明を行い、その後、南北首脳会談で文在寅氏が訪朝すると決まった』と聞いた」などの情報がある。

 北朝鮮が「平和攻勢」に転じた背景には、厳しい制裁で資金枯渇が現実味を帯びてきたことが大きいが、そのほかにも理由がありそうだ。まず、(1)核戦力の完成に一定のめどがついた(2)五輪を利用して開発の時間を稼ぐ(3)米国の軍事攻撃回避のため南北首脳会談で韓国を取り込み米韓を離反させる-などの戦略だ。特に韓国取り込みは文在寅政権の従北傾向から一気に可能で、制裁逃れに効果的。「裏では支援の名目で多大な見返りを要求しているだろう」(朝鮮半島専門家)との見方も出ている。

 

 金与正氏一行を迎えた文在寅政権のメンバーをみると、首脳会談準備のためではないかと思わせる顔ぶれだった。

 まず、韓国情報機関、国家情報院のトップである徐薫院長は、金大中・盧武鉉時代の2回の南北首脳会談で実務に当たった人物。統一部長官の趙明均氏もまた、盧武鉉時代に大統領府で統一外交安保政策秘書官として務め、南北首脳会談に深く関わった。

 さらに大統領秘書室長として出席した任鍾●(=析の下に日)氏は、学生時代に北朝鮮を信奉する主体思想派のリーダーとして名をはせ、現在の韓国大統領府きっての親北派だ。任氏は別途、2度目も夕食会を催して金与正氏一行をもてなした。

「対話のデッドライン」

 米国は文政権に南北首脳会談に関する説明を求め、4月に予定する米韓合同軍事演習に関する態度を問うことになる。当面の注目は合同演習に対する文政権の立場と南北首脳会談に関する米国の対応だ。

 訪韓したペンス米副大統領は一貫して強硬なメッセージを発信した。北朝鮮代表団とは同席せず、脱北者と面会して金正恩体制の人権侵害を非難し、北朝鮮に抑留され、その後死亡したオットー・ワームビアさんの父親を同伴、北朝鮮に撃沈された韓国哨戒艇「天安」の記念館を訪問した。

 米共和党関係筋によると、現在のトランプ政権の対北政策の原則は「北朝鮮の核ミサイル技術がこれ以上、進展することは絶対に容認しない」「対話のデッドラインは6月」だという。これまで、米朝間では水面下接触は断続的に行われたもようだが、これまでのところ進展はないという。

 

 米国の専門家の間でささやかれる「6月危機説」は「デッドライン」に関する観測からで、これを裏付けるように米中央情報局(CIA)のポンペオ長官は先月下旬のワシントン市内での講演で「ほんの数カ月先に北朝鮮は米本土を攻撃可能になる」との認識を示している。

 トランプ政権の米朝対話の条件はあくまでも「北朝鮮の核放棄」が前提。米国内の対話派の間では「核凍結」でも米朝対話も行うべきとの主張があるが、それでは過去の失敗を繰り返すことになる。このため米朝対話は極めてハードルが高く、米国を中心とした「最大限の圧力」が平昌五輪・パラリンピック後に再開するのは確実だ。

 文在寅政権は今回、金与正氏らとの会談で核問題を一切、語らなかったが、南北首脳会談に関する米韓の調整ではこの点をどう説明するのか。また、北朝鮮の言いなりにみえる文政権の交渉能力を米国は簡単に信用しないだろう。

 米朝協議が実現せず、米韓関係も悪化して朝鮮半島で軍事演習ができなくなった場合、米国は6月にどんな決定を行うのか。有力視されているのは海上封鎖だという。1962年のキューバ危機では米国がカリブ海で海上封鎖を実施、米ソの核戦争の危機をめぐる緊張が極限まで高まった。首脳会談で韓国が北朝鮮に取り込まれると、緊張緩和どころか朝鮮半島危機はかえって先鋭化する可能性もありそうなのである。(編集委員)