金正恩氏の甘い罠…北は「平昌五輪参加」で一石五鳥を狙っている

2018/01/13 01:00

 北朝鮮にとって平昌五輪は政治宣伝の道具に過ぎない。金正恩氏は「代表団を派遣の用意がある」のひとことで局面転換に成功した。韓国は「南北同時入場を」などと浮き足だっているが、北の狙いが国際包囲網の弱体化と制裁逃れ、時間稼ぎにあるのは明白だ。9日の南北会談では今後の軍事当局間協議などでも合意したが、南北対話が始まれば、さまざまな形で北朝鮮に韓国資金も流れ込む。北朝鮮の五輪参加は欺瞞すぎず、韓国は北朝鮮に政治利用される可能性が高い。

金正恩氏の「平和攻勢」

 北朝鮮は平昌五輪に高官代表団、選手団、応援団、芸術団、観戦団、テコンドー団、記者団など韓国に送り込むが、その規模は「400~500人の代表団になるだろう」(李洛淵・韓国首相)という。大規模代表団で五輪の雰囲気を一変させ、南北の祭典のように盛り上げて北朝鮮の平和攻勢の宣伝一色にしようとの目論みだ。応援団や芸術団は有名な“美女軍団”である。彼女たちが平昌に来れば韓国だけでなく世界の注目の的になる。

 選手団としては約20人で、女子アイスホッケーやショートトラックが推薦枠で出場が可能とみられる。韓国の民族意識が高まるのは必至だ。「南北は同族」とのいわば心理的武装解除状態になるだろう。

 

 さっそく米韓合同軍事演習を延期させたが、狙いは「韓国カード」のさらなる政治利用だ。その主なポイントは5つ。

 (1)すでに文在寅政権は取り込まれた。今後、離散家族再会などの人道問題を北朝鮮が受け入れれば、韓国は米韓合同軍事演習の実施を拒むだろう(2)米国は五輪期間中の軍事演習を見合わせたが、今後も韓国が演習中止を要請すれば米韓同盟関係に亀裂が入る(3)対話ムードは国際社会の対北制裁を鈍らせる(4)南北対話で人の往来が実現すれば韓国の資金が北朝鮮に流れる(5)北朝鮮は南北対話を口実に時間稼ぎが可能になった。

 北朝鮮が核・ミサイル開発の放棄を前提とする対話に出る可能性は限りなくゼロに近い。この時間稼ぎを米国はどこまで許容するのか。日米は懸念を持ちつつ韓国文在寅政権の行動を見守っている。

金正恩氏に借りを作った文在寅大統領

 韓国の文在寅大統領は10日の年頭会見で「条件が適切であればいつでも首脳会談を行うことができる」と南北首脳会談に改めて意欲を示した。文大統領は就任当時から南北首脳会談に意欲をみせていただけに、ますます前のめりである。

 

 韓国は北朝鮮に、五輪開催の盛り上げで「借り」を作った格好だ。平昌五輪をめぐっては、北朝鮮の脅威から五輪参加に留保を付ける国もあったが、南北融和ムードを演出したことで韓国は北朝鮮に主導権を取られた形だ。韓国は今後、北朝鮮に政治的譲歩を迫られるとみられる。

 平昌五輪に参加する北朝鮮代表団の経費は韓国側が負担する見込みだ。これは国際制裁網のなかで「スポーツだけ例外なのか」という批判も出そうだ。

 また、五輪開会式で南北は合同入場する場合、「国旗」が問題となるだろう。これまで南北が合同入場する際には、2000年のシドニー五輪などで「朝鮮半島旗(統一旗)」を掲げた例があるが、今回は韓国での開催だ。韓国国内では早くも、韓国国旗(太極旗)を使わずに「統一旗」にするのではないかとして、「ホスト国として自国の国旗を揚げないのか」との懸念が取り沙汰されている。

予想される要求項目は…

 南北閣僚級会談では北朝鮮代表である祖国統一委員会の李善権委員長が、韓国側の「非核化に向けた対話再開が必要」との発言に猛反発、「核爆弾など最先端兵器は徹頭徹尾、米国を狙ったもの」と大声をだした。核問題に韓国には口を出させないとの強い意思表示で、南北対話を突破口に「北朝鮮の核問題を平和的に解決しなければならない」(文大統領)との見通しは通用しそうにない。

 

 北朝鮮はいまのところ、韓国に厳しい要求は突きつけていない。五輪参加で韓国から何が獲得できるか見定めようとしている。

 しかし、今後、予想されるのは米韓合同軍事演習の中止、開城工業団地再開、金剛山観光開発の再開、南北経済交流事業の再開、韓国政府の対北制裁解除などだ。対話が継続すればこうした要求が出て来る可能性があるが、いずれも対北国連制裁に抵触するものだ。

 米国は平昌五輪が終了する3月18日以降に米韓合同軍事演習を実施する予定で、「予定通りに北朝鮮への軍事圧力を強める」(米太平洋軍ハリス司令官)としている。北朝鮮の平和攻勢に文在寅政権はどう対応するのか、現在のところその戦略は全く見えない。(編集委員)